タイムマシーンの薬

第3回 タイムマシーンの薬

石巻薬剤師会 理事 丹野 佳郎/2017年2月17日(金)公開

数ヶ月前、ある患者さんに、服薬指導をしているときのことでした。
「今している注射は、タイムマシーンに乗る薬だって、お医者さんに言われたよ。」と、にっこり笑顔で話されました。
「えっ」と驚いて、薬歴簿の既往症欄を確認すると、「C型肝炎・インターフェロンで治療中」とあり、なるほどと思いました。

1988年にC型肝炎ウイルスが発見され、C型肝炎が感染症であることが確認されました。 昔、輸血後肝炎ともいわれていたこの病気の主な感染ルートは、1960年代の売血による輸血や、1980年代の輸入非加熱血液製剤、麻薬、覚醒剤の注射器の使い回しでした。1994年以後は血液の検査法も確立し、献血による危険性は無くなりました。肝臓は「沈黙の臓器」ともいわれ、重症になるまで自覚症状も少なく、たまたま受けた健康診断で発見され、困惑する患者も多いのが事実です。C型肝炎は感染後20年、30年と長い年月を経て、ウイルスの増殖をともない、肝臓を蝕み、肝硬変を経て肝ガンになるケースが少なくありません。

現在、C型肝炎ウイルスの根治療法は、インターフェロン(IFN)だけで、ウイルスのタイプや、その量により効果に差があり、効果の期待できるグループの患者さんに実施されています。病気の進行を抑えるためには、ウイルスの完全除去、あるいは、ウイルスが完全に除去できなくても、ウイルス量を限りなく感染時に近い量まで減らすことにあります。

冒頭の患者さんが言った「タイムマシーンの薬」とは、インターフェロンの効果による、20年、30年前の感染初期の状態へのタイムトラべルのことでした。
インターフェロン療法では、長い人で半年間、週3回の通院が必要です。仕事をしながらの治療は、患者さんとって大変な負担があり、周囲の理解と協力が不可欠です。どんな良い薬にも副作用は伴います。投与初期にはインフルエンザのような発熱や、胃腸障害、全身倦怠感、後半ではうつ状態など多岐にわたります。

その後、この患者さんからも全身倦怠感があり仕事がつらいとのお話しが出ました。
患者さんの相談ごとにお答えし、より良い薬物治療の達成に貢献することも薬剤師の大切な仕事です。数日前、あの患者さんから半年間のインターフェロン療法が終わり、最初の検査ではウイルスが消えているとお電話を頂いたときには、タイムトラベル成功したかと、我がことのように喜びでいっぱいでした。

厚生労働省では、1994年以前に輸血の経験がある方に、検査を勧めています。早期発見、早期治療が重要です。輸血や血液製剤での治療したことのある方はぜひ専門医の受診をお勧めします。